自転車世界旅vol:9 【イギリス~フランス編】
第九弾は【イギリス→フランス編】
つらい道のりも楽しさに変え、最終目的地のパリに進む溝口さんに感動です。
10月11日 イギリス カンタブリ→ダラム【本日の走行距離:110km】
イギリスといえば、ロンドン無しで語ることはできないだろう。
二つの塔が特徴のタワーブリッジ、テムズ川に面する大きな時計台ビッグベン、赤色の2階建てロンドンバスなど、テレビやネットで見てきた景色が、それらを介さず私の前に現れた。
道路は身動きの取れない自動車で埋まり、排ガスとクラクションが交じり合う中、迷路を辿るよう自転車ですり抜けていく。カオスだ。
目眩がしそうなロンドンの街から電車でおよそ3時間。イギリス北部のダラムという地に降り立った。そこにはかつて同級生だった「ゆうき」が住んでいる。
日本人学校で別れてから6年という月日はお互い多大な変化をもたらしていた。
当時インドア派だった私は見違えるようにアウトドア派になり、ゆうきは日本語より得意気に英語を話している。今はもう英語で夢を見るのだとか。懐かしい思い出に談笑しながら再会を喜んだ。
10月12-13日 イギリス ダラム【本日の走行距離:km】
イギリスのダラムという街は名門のダラム大学の学生が多く住む学園都市だ。
ゆうきもまた、ダラム大学に通っていて、街を歩くだけで、ひっきりなしに友人とすれ違う。
代表的なイギリス料理であるフィッシュ&チップスを食べながら、大学内や映画ハリーポッターの撮影が行われたダラム大聖堂を巡り歩いた。
さすがは学生の街。夜のバーに行けば大勢の若者で賑わっていた。
ゆうきの友人たちとお酒を飲んでいたはずだが、私はお酒に弱いのでビール半分で眠ってしまったらしい。後から私のカメラを見ると、集合写真には机に突っ伏した私が写っていた。
10月14日 イギリス ロンドン→ポーツマス【本日の走行距離:187km】
電車の車窓から沈みゆく夕日を見ながら、再びロンドンに電車で帰ってきた。
その後、イギリスとフランスの海峡を渡るため、港町のポーツマスを目指した。
日が沈み切った後、東からまた昇ってくる間、ひたすら自転車をこぎ続けた。
景色は真っ暗で何も見えないし、道を間違えて何度か遠回りもしたが、すごく楽しかった。たった一人で広大な大地を独り占めしているような、そんな贅沢な時間だった。
ようやく着いたフェリー乗り場で、余韻に浸りながら深い眠りについた。
10月15日 フランス サン・マロ→ドゥセー【本日の走行距離:106km】
哲もない海岸沿いの小島に巨大な建造物がそびえ立つモン・サン=ミシェルを知らない人は居ないだろう。
だんだんと近づくと、その荘厳さと美しさに圧倒される。
これがこの世の物だとは考え難い、感動なんて言葉では物足りないくらいだ。今年のツール・ド・フランスはそこからスタートし、大勢の選手たちが一斉にそこから走り出したのを覚えている。モン・サン=ミシェルからパリの凱旋門まで……。
旅は終盤だが、新たな旅がたった今始まった。私のツール・ド・フランスの幕開けである。
体調が悪い中、ゴール地のパリへと漕ぎ進める
10月16日 フランス ドゥセー→セー【本日の走行距離:108km】
パリ・ブレスト・パリという自転車の長距離ライドイベント「ブルベ」をご存知だろうか。
その名の通り、パリとフランスの西海岸ブレストという街を自転車で往復1,200km走る。
今走っているルートは復路のパートだ。いつかは私も出場したいと願っていた。
ところが、先日から体調が悪く、どうやら熱っぽい。ヘルメットがやけに重たく感じる。
苦しいところだが、その願いが潰えぬよう最後の最後まで力を振り絞って、自転車で進まなくては。
パリから200kmほど離れたセーという場所で、新たな出会いがあった。
ケバブ屋で言葉も通じないのになぜか意気投合したシリアックだ。彼の家に招待され、家族からも歓迎を受けて、良い友達ができた。
10月17日 フランス セー→ノナンクール【本日の走行距離:70km】
早くパリに着きたい!そう思いながら夜中も走る覚悟でいた。
しかし、人の親切が無理をしようとしていた自分への歯止めになった。
夜遅くに閉店間際のハンバーガー屋の店主から「家に泊まっていけ。」と言われたのだ。
よって、その日は走るのをやめた。それで良かったと思った。
その店主ウィルさんや、奥さんのメラニンさん、そして可愛い娘さんのクローエに出会えたからだ。
パリはこれからも行こうと思えば何度だって行くことができるだろう。けれども、一期一会はそのとき限りの貴重な体験だ。もっと速く、もっと長い距離を走らなければと焦っていた私は愚かだったとさえ感じた。今は、気楽に行こうという考えに変わった。
残すはパリまでの道のりと、帰国後、関空から愛知県まで走行すれば、いよいよゴールだ。
今回の旅はそれで終わりだ。最後まで気を抜かずに頑張りたい。